ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「ひろなら部室にいるぜ」
「知ってる、宏之に呼ばれたから」
「だよな。そうでもなきゃ、あんたがこんなとこいるなんて、珍しいもんな」
「堀くんはなんでここに?」
「さっきまでひろとミーティングしてたんだよ、明日の試合について」
「熱心だね」
「まあ、勝ちたいからな」
さらりと言ってのけるけど、勝利には誰よりも執着しているはずだ。
練習試合なんかじゃない。
大事な一戦だと聞いている。
1月に国立競技場に行けるかどうか――それが賭かっている。
用意された切符は、わずか1枚のみだ。
「エロいことなんかしてねえで、早くひろを帰してやれよ」
エロいことって。
キスですら、まだ済ませてないのに。
どこまで妄想が突飛なのよ。
最後まで軽口を叩く彼にむっと気分を害するものの、堀くんにそれが伝わる様子はなく。
掲げた片手をひらひらと振って、背を向けてクラブ棟内の出入り口へと進んでいく。
宏之に会えると思ってうきうきと高鳴っていた気持ちが、半減してしまった。
ため息まで漏れる。
さて、気をとりなおそう。
ノブに手をかけると、ドアの真ん中にはすりガラスがはめこまれていて、ぼうっとした灯りが漏れていることに気づく。
ドアを押し開けると、左右の壁際にロッカーがずらりと並ぶ。
その向こう側の窓のそばで、長身の後ろ姿が夕陽に照らしだされていた。
「……宏之」
長く伸びた影がこちらを振り返ると。
呼びだしてごめんね、と開口一番、謝罪を口にする。
「どうしたの? こんなところに」
「いや、ちょっと話したいことがあって」
宏之は曖昧に笑う。
こんなところで私に話したいことって、なんだろう。
何を告げられるんだろう。
別の意味でドキドキと鼓動が高まる。