ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

「ひろなら部室にいるぜ」

「知ってる、宏之に呼ばれたから」

「だよな。そうでもなきゃ、あんたがこんなとこいるなんて、珍しいもんな」

「堀くんはなんでここに?」

「さっきまでひろとミーティングしてたんだよ、明日の試合について」

「熱心だね」

「まあ、勝ちたいからな」



さらりと言ってのけるけど、勝利には誰よりも執着しているはずだ。


練習試合なんかじゃない。

大事な一戦だと聞いている。

1月に国立競技場に行けるかどうか――それが賭かっている。

用意された切符は、わずか1枚のみだ。



「エロいことなんかしてねえで、早くひろを帰してやれよ」



エロいことって。

キスですら、まだ済ませてないのに。

どこまで妄想が突飛なのよ。


最後まで軽口を叩く彼にむっと気分を害するものの、堀くんにそれが伝わる様子はなく。

掲げた片手をひらひらと振って、背を向けてクラブ棟内の出入り口へと進んでいく。


宏之に会えると思ってうきうきと高鳴っていた気持ちが、半減してしまった。

ため息まで漏れる。



さて、気をとりなおそう。


ノブに手をかけると、ドアの真ん中にはすりガラスがはめこまれていて、ぼうっとした灯りが漏れていることに気づく。

ドアを押し開けると、左右の壁際にロッカーがずらりと並ぶ。


その向こう側の窓のそばで、長身の後ろ姿が夕陽に照らしだされていた。



「……宏之」



長く伸びた影がこちらを振り返ると。

呼びだしてごめんね、と開口一番、謝罪を口にする。



「どうしたの? こんなところに」

「いや、ちょっと話したいことがあって」



宏之は曖昧に笑う。


こんなところで私に話したいことって、なんだろう。

何を告げられるんだろう。

別の意味でドキドキと鼓動が高まる。

< 21 / 103 >

この作品をシェア

pagetop