ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

「私、行けないんだよね、臨月だから」



いつ産気づくかわからない人が同窓会に参加するのは、リスクが伴う。

万が一、同窓会の最中に陣痛が始まったりしたら、ちょっとした騒動が引き起こされるかもしれない。



予定日は? と訊こうとした矢先。

唇の両端を不気味に吊りあげた和田梓が。



「同窓会といえば、確か高校の時、外村くんとつきあってたよね」



私と宏之がつきあっていたのを知っていた人間は、多い。

宏之の朝練のない登校時や、テスト前で部活のない下校時など、毎日のように一緒にいた。

休みの日には、人どおりの多い繁華街を手をつないでデートしたこともある。

徒歩で通学する生徒が多い高校だったから、クラスメイトも家の近所に住んでいるが多い。


私たちの姿を目にしていた人なら、いくらでもいるだろう。

和田梓が私たちの関係を知っていても、何も不思議ではない。



だけど。

妙な胸騒ぎがする。

わざわざ「外村くん」と名前を出した和田梓に、なんらかの意図や思惑がひそんでいるのは、間違いないだろう。



「私、見かけたのよね、外村くん。先月末だったかなあ、汐留で」



愉快そうに話す和田梓の、グロスの光る唇は、止まることを知らない。



「女の子と一緒だったの、色白で、かわいらしくて、背のちっちゃい子で」



たぶん、あれはデートよね、と知ったかぶりで言う和田梓の声は、もう耳に届いていなかった。

視界が真っ暗に覆われると同時に、すべての音声が遠ざかり。

やがて甲高く響く声は、シャットアウトされた。


杏子の話が本当だとして。

高校時代、和田梓が宏之に想いを寄せていたとしたら。

同窓会の話をしたくて、いちいち持ちだしたのではない。

宏之が東京で、かわいい女の子と一緒にいたところを目撃したことを、わざわざ私に聞かせるための、前振りだったのだ。



今なら、わかる。

あれは彼女なりの、私へのささやかな復讐だったのだ。

宏之とつきあっていた私への、あてつけだったのだ。

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