ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

「陽平?」



一歩先を歩いている陽平が、コート越しに振り返る。

手袋をしていない片手を握ると、ひどく冷たい。

両手で温めるように包みこむ。

添えた左手の薬指にある指輪が、街灯のせいなのか、きらりときらめく。



「ありがとう」






玄関のドアを開けるなり、いきなり肩をつかまれ、後ろを向かされた。

ぎゅっときつく抱きすくめられ、噛みつくように唇をふさがれた。

角度を変えて、何度も何度もさらうように奪われる。


脱いでもいなかったコートが、背中をすべる。


直後。

ゴトン、と何かがフローリングの床に落ちる鈍い音を聞いた。

突然、両腕で抱きしめられる。


唇を合わせながら、さっきのがコートの音だろうと思いかけて、別のものだとすぐに考え直す。

ビジネスバッグを投げたものだったのだ。



ニット下のキャミソールに有無をいわさず差し入れてくる手を、かろうじて阻止する。

玄関先で抱かれるわけにはいかない。

何せ、ふたりとも靴を履いたままなのだ。



「ベッド、行こ?」



ようやく解放された隙に、口を開く。

けど、すでに息が絶え絶えだ。

完全にペースに呑まれて、最後までもつ気がしない。



「すまん、ちょっと焦った」

「焦らなくてもいいのに」



しょげるように眉を八の字の垂れてみせた陽平がおかしくて、つい噴きだしてしまう。



短い廊下を進むうちに、キャミソールだけになってしまい、肌があらわになる。

寒さに耐えられず、両腕をこすりあわせて縮こまっていたら、ベッド脇に置いているリモコンを操作して、暖房を入れてくれる。



ベッドに徐々に押し倒されている間も、キスは止まらない。

シュルッとネクタイを外す音が聞こえたと思ったら、覆いかぶさってきた。

< 69 / 103 >

この作品をシェア

pagetop