ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
「陽平?」
一歩先を歩いている陽平が、コート越しに振り返る。
手袋をしていない片手を握ると、ひどく冷たい。
両手で温めるように包みこむ。
添えた左手の薬指にある指輪が、街灯のせいなのか、きらりときらめく。
「ありがとう」
玄関のドアを開けるなり、いきなり肩をつかまれ、後ろを向かされた。
ぎゅっときつく抱きすくめられ、噛みつくように唇をふさがれた。
角度を変えて、何度も何度もさらうように奪われる。
脱いでもいなかったコートが、背中をすべる。
直後。
ゴトン、と何かがフローリングの床に落ちる鈍い音を聞いた。
突然、両腕で抱きしめられる。
唇を合わせながら、さっきのがコートの音だろうと思いかけて、別のものだとすぐに考え直す。
ビジネスバッグを投げたものだったのだ。
ニット下のキャミソールに有無をいわさず差し入れてくる手を、かろうじて阻止する。
玄関先で抱かれるわけにはいかない。
何せ、ふたりとも靴を履いたままなのだ。
「ベッド、行こ?」
ようやく解放された隙に、口を開く。
けど、すでに息が絶え絶えだ。
完全にペースに呑まれて、最後までもつ気がしない。
「すまん、ちょっと焦った」
「焦らなくてもいいのに」
しょげるように眉を八の字の垂れてみせた陽平がおかしくて、つい噴きだしてしまう。
短い廊下を進むうちに、キャミソールだけになってしまい、肌があらわになる。
寒さに耐えられず、両腕をこすりあわせて縮こまっていたら、ベッド脇に置いているリモコンを操作して、暖房を入れてくれる。
ベッドに徐々に押し倒されている間も、キスは止まらない。
シュルッとネクタイを外す音が聞こえたと思ったら、覆いかぶさってきた。