ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-
澄みきった蒼穹は、泣きはらした目には、やけにまぶしかった。
だけど、青空をのんびり眺めている余裕は、ない。
そむけようと自ら意図していたのか、そうじゃなかったのか。
卒業証書がおさめられた黒い円筒をきつく握りしめながらもなお、私の目は、ブレザーの背中だけに向けられていた。
向けていたというより、にらみつけていた。
「どうしてもっと前に教えてくれなかったの」
今さら責めたところで、もうすべてが手遅れで。
無意味だと悟りきっていたのに。
口からこぼれるのは、追い詰めるようなことばかり。
ブレザー越しにこちらを振り返る顔がわずらわしげで、私のことを鬱陶しく思っているのは、明白。
怖くなって、立ちすくみそうになる。
「何が」
「東京の大学に行くこと」
せめて、センター試験の前に教えてほしかった。
いや。
東京の大学を志望すると決める前に、相談くらいしてほしかった。
どうして、ひとりで勝手に決めてしまったのか。
どんなに考えても、わからない。
合格したよ。
喜色満面の笑顔で、聞かされた。
おめでとう、って祝福しなくちゃいけないのに。
全然そんな気分になれない。
「だって、関係ないじゃん、俺の進路」
冷めた目が告げる。
関係ないなんて、どうして言いきれるんだろう。
私の存在は?
彼女なのに、私のことは関係ない?
なんのための彼女?
でも。
私もバカだったと思う。
どうして、もっと早くに気づけなかったんだろう。
9月の、2学期が始まってすぐに部活を引退していたことを知っていたから、その時に気づけるはずだった。
運動部に所属していた人たちが、秋ごろから受験勉強を本格的に始めるもので。
宏之もそのひとりなのは、嫌でもわかる話だったのに。