攫って奪って、忘れさせて。
その瞬間、我慢していた涙が一気に溢れてきた。それを隠すためにトイレに向かったけれど


「ひゃっ!」


その手前で腕をぐいっと引っ張られて


「久しぶり」


聞き覚えのある声に私の心臓はドキンッと大きく音をたてた。慌てて顔をあげると


「泣いてんの?」


付き合っていたあの頃と変わらないやさしい声でそう言ったと同時に、彼の親指が濡れた瞼に触れる。

その優しさに流れる涙の勢いが増した。
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