Hurly-Burly 5 【完】
伊織君は車道の方を見てやれやれと息をつく。
まるで、保護者が子どもを庇ったようなシーンだ。
たまに、極たまに伊織君から面倒見の良さを
思わせるところを見ることがある。
「ほら、ちゃんと立てるか~?」
伊織君が引き寄せた腕を戻す。
離れた瞬間伊織君が少し屈んで、
目線を同じ位置にして問うた。
「た、立てるさ!」
ポンっと頭に手を置くと優しく撫でられた。
「そっか、立てなかったらお姫様抱っこ
してやろうと思ったのにな~」
じょ、冗談に聞こえないのですが!?
「や、やなこった!」
伊織君との文化祭の逃亡劇を思い出して、
首を横にブンブン振った。
「随分、即答で伊織君寂しいー。」
「何その泣き真似は?」
しくしくなんて手でジェスチャーするあたり、
伊織君の演技力を疑う。
「それで、どこに行きたいんですかお姫様?」
「おひ、おひ、お姫ではない!」
しどろもどろでキョドるあたしに伊織君が
右手を差し出してくる。
「お姫様ごっこってのかー?心ちゃん大好きなのよね。」
「ココちゃん、元気にしてる!?」
伊織君に食いつくように聞くと伊織君が
ポスポスっと頭を撫でた。
「心ちゃんと同じこと聞いてくるーね。」
「えっ!?」
「ひよちゃんはいつ来るのって電話してくる
のねー、あんまり可愛いから何も答えないけどー。」
「伊織君、鬼だ・・・・・」
可愛い妹の問いかけには答えてあげるべきよ!
もしも、兄ちゃんがそんな意地悪・・するよあの人。
道行く人から視線で体に穴が開きそう。
貫通するんじゃないかってビクビクした。
主に、女の人からは睨まれてる気がする。
男の人は見ないフリして去っていくけど、
恐ろしいばかりの闘志を感じて身の気が引く。