Hurly-Burly 5 【完】

やっぱり、氷に触ってるみたいに冷たい。

ちぃ君の手がこんなに冷たいことって

滅多にないことだと思うのに。

「ほら、ここの自販機お汁粉あった!」

自販機をバシバシ叩くあたしにちぃ君が、

お汁粉をジッと見てる。

チャリンっと自販機にコインを入れる。

赤くランプの付くボタンをジッと見てるちぃ君。

「お汁粉でい」

いいかねって聞こうとする前にはもうちぃ君が

ポチっとボタンを押してた。

えっと、落ち込んでる時でさえも自分のペースを

崩さないと!?

「で、では、あたしも失礼して。」

コンポタージューのボタンを押すとガコンっと

缶の落ちる音が静かな空間に響いた。

駅から離れた喧騒なんて殆どない住宅街、

家から少し離れた種類豊富な自動販売機前、

ポツリと肩に空からの贈り物が届いた。

手の中にある缶からの温もりがどうか

心に届けばいいのにと思った。

「・・・・・・ちぃ君」

降り積もった雪が斜面を凍らすように、

春の訪れはまだ先を告げている。

あたしは知ってる。

「他人の存在を温もりを感じたことはある?」

冷たい指先が凍りついてもその溶かし方を

君は知っているだろうか?

あたしと君が出会って間もない頃に君が

してくれたことであたしは感じることが出来た。

「あたしは、ずっと言えなかった。」

我慢をして怖いなんてことを口に出すことが

ずっと出来ないでいた。

「あたしが怖いって言った雷の日のこと覚えてる?」

今でも何が怖いとか分からない。

実際にどこが怖いのって聞かれても説明のしようがない。

でも、確かにあたしは怖いって思ってるのに言えなかった。

たった2文字の言葉を他人に言えなかった。

小さなことかもしれないけど、あたしには

出来なかったことだった。

それが、出会って間もないちぃ君に言えたのは

あたしにとって奇跡に近いことなんだ。

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