ソウル◆チューン
酒呑Jrが誕生して12年の月日が経過し、人並みのペースではあったが酒呑Jrも成長した。
そんなある日

「酒呑、妾と来い。面白い事がある予感がする。」

蕀が思いたったように言った。

「ほぅ…蕀の勘は当たるからな。分かった。行こう。」

そうして蕀が山中に酒呑Jrを連れて行くと、

「酒呑、暫しここに居るが良い。退屈しのぎに動物を狩るのも良かろう。待っていろ。」

言い残すと早々に姿を消した蕀は、山沿いの道路で何かを待ち受けた。
滅多に車も通らないような場所だが、蕀はじっと彼方を見つめると、気配を感じて微笑を浮かべた。
一台の車が向かって来ている。蕀はおもむろに路にしゃがみこんだ。
思惑通り車は止まり、助手席にいた女性が降りて蕀に近付いてくる。

「どうしました?大丈夫ですか?」

顔を上げぬまま、ボソボソと呟くと

「え?なんですか?とにかく私達の車で病院に…」

支えられ、立ち上がった瞬間に鳩尾に一撃を喰らわす。逆に腕の中に崩れ落ちてきたその女を軽々と支えると、車の運転席にいた連れを一瞥する。
唖然と事の成り行きを見ていたその女が、その視線に恐怖を感じているのが分かった。
蕀は蠱惑的な紅い唇の片側を引き上げ、ヒラヒラと手を振ってみせる。
途端に我に返ったその女は、蕀の手の内にある友を凝視した。
態々、頭を掴み、顔が見えるようにしてやると、意識のないものと思っていた女は何か声にならない言葉を相手に言ったようだ。
それにガクガクと首を振って答えると、急に車のエンジンをかけて猛スピードで走りさる。
蕀は追いかけようとも思わなかったが、意識を無くしながらも、蕀を掴む手を放さないのが気にさわって、仲間を呼び出した。

「疑心暗鬼。あの車の女にとり憑いておいで。」
『ウガァァ』
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