王子様とビジネス乙女!
「どうしたんだ、カドリ。
そんな眉間に皺を寄せて」
私にそう話しかける男がいる。
金細工みたいな見頃なブロンド、芸術品じみた端正な顔立ち。
アイスブルーの優しい瞳がこちらに向けられているのを、残念ながら私は歓迎していない。
別にブロンドは馬鹿そうで嫌いだからとか、そういう理由ではない。
私の目の前に立つ彼が、少し前まで金儲けに利用しまくっていた麗しの王子様であることが問題なのだ。
「別に。
何でもありません」
なるべくウンザリさが顔に出ないように、私は呟く。
紆余曲折を経てどういう訳か私の弟子となった彼は、これまたどういう訳か暇さえあれば私と行動を共にするのだ。
別に地味な私の素顔が実は絶世の美少女で、ある日王子様に電撃的に見初められたとかではない。
女に不自由しない彼が「地味」の概念を凝縮させたような女と歩く理由は一つ。
嫌がらせである。
自分の写真を好き勝手売りまくり、がっぽり儲けた女に対する嫌がらせ。
ご褒美の間違いじゃないのかって?
とんでもない、ひどい報復だ!
今この瞬間も無数の視線がこちらに向けられている。
好奇と嫉妬と悪意のたっぷり含まれた、とびきりドロドロした視線が。
私は目立つことが大嫌いだ。
地味な方が平和に過ごせるし、後ろめたいビジネスもやりやすい。
だからこれまでずっと、人畜無害であろうと努めてきたのに……王子のせいで台無しだ。
地味な小娘が何故かレナール殿下の寵愛を受けだしたというニュースはすぐに学園中に行き渡った。
正直一瞬退学も考えたが、馬鹿らしいので我慢して通っている。
この、外見だけは美しい疫病神を引き連れて。