王子様とビジネス乙女!
王子様の効果は抜群だ。
元々少なかった友人の数は更に激減。
翌日にはイジメが始まり、既に教科書が3冊、ノートが5冊ほどオシャカになっている。
しかしまぁ、イジメ程度なら百歩譲ってよしとしよう。
教科書ノートがダメになったくらいで留年するようなヤワな頭脳はしていない。
許せないのは私のささやかなビジネスライフを破壊したことだ。
こう目立っては何事もやり辛いことこの上ない。
第一王子様の写真を売りさばいちゃうなんて、何とも他愛ない、乙女らしい商売じゃないか。
世に流布する悪質な商法の数々と比べれば、駒鳥のような愛らしさだ。
だというのに。
「私が弟子になってから君はずっとそんな顔じゃないか。
少しは笑ってほしいな。
せっかく可愛い顔をしているのに、もったいない」
王子様が爽やかに微笑みながらそんなことを言う。
少しは笑ってほしいだと?
嫌みか!
嫌みなのか!
誰のせいで笑えなくなったと思っている!
少し前までは、写真販売の売上帖を眺めるだけで笑顔が止まらなかったのに…
私のことを1ミクロンでも可愛いと思うのなら、私を放っておいて欲しかった。
もっとも、本当に可愛いなどとは1ミクロンたりとも思っていないだろうが。
いい加減限界だ。
頭に来た。
私は王子様の手首を掴んで物陰に引き込み、そのまま小声でわめく。
「満足ですか…?」
「え?」
「私のささやかな日常を破壊して、満足ですか…!」
生き血を絞り出すような声でそう言うと、何故か王子様は少し意外そうな顔をした。
「あれ、そんなに私が嫌だったのかな?」
「レナール様が嫌とかそういう話じゃなくてですねぇ。
もう、王子様といるだけで目立ってしょうがないんです。
こんなに地味な私が今や学園中の噂ですよ!?
これじゃ何にも売れません。
こちとら商売上がったりですよ!」
「あ、そっちか」
「何がそっちですか!」
「いや、本当のところを言うとね…」
王子様は若干気まずそうに語りだす。