キモチの欠片
「……ゆず、」
掠れた声であたしの名前を呼ぶから他の誰かと間違えている訳ではないみたい。
そのことに安堵している自分がいた。
この気持ちはなんだろう。
髪の毛に葵の吐息がかかり唇を押し付けてくる。
この恋人同士のような行為はいったいなに?
甘ったるいオーラが駄々漏れなんですけど。
突然のことに戸惑っていたら、ふっと抱きしめている腕が緩む。
「……だ、ゆず、」
ちゃんと聞き取れなかったけど、もう一度名前を呼ばれたのは分かった。
ゆっくり顔をあげると葵の漆黒の瞳と目が合い至近距離でじっと見つめてきて、その熱い視線に耐えられなくなり顔をそらした。
「ゆず……、俺を見ろ」
あたしの両頬を手で包み込み壊れ物を扱うように優しく撫でる。
その行為に恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「あ、葵……寝ぼけてるの?」
声が震えた。