キモチの欠片
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「ゆず、入るぞ」
葵の声にゆっくりと目を開ける。
薄暗くなった部屋の明かりをつけ、ベッド脇までお盆を持ってきた。
その明かりに目が慣れなくて、何度か瞬きする。
「ほら、お粥食えよ」
お盆の上には湯気の立ち上る梅干しの入った至ってシンプルなお粥。空腹のあたしにはそれがすごく美味しそうに見える。
身体を起こし、ベッドから降りようとしたら制止された。
「ゆず、そのままベッドに座っとけ。俺が食べさせてやるから」
「えっ、いや、いいよ。自分で食べるから」
「そんな遠慮すんなよ」
サイドテーブルにお盆ごと置き、葵はレンゲでお粥をすくってふぅふぅと息を吹きかける。
「ゆず、口開けてあーんしろ」
有無を言わせずあたしの口元にもってくる。またこのパターンな訳?
一人で食べれるんだけど。
抵抗しても無駄だと分かってるから仕方なく口を開けてお粥を食べる。
若干、恥ずかしさはあるけどこれが慣れつつある自分が怖い。