あの夏よりも、遠いところへ


目が覚めたらお昼を回っていた。リビングに雪ちゃんの姿はなく、お父さんとお母さんが無言で昼食を摂っているところだった。


「朝日、ご飯食べる?」

「雪ちゃんは?」

「知らないわよ。まだ部屋で拗ねてるんじゃない」


食卓に並ぶ味噌汁を、お母さんの頭にぶっかけてやろうかと思った。知らないって、なんだよ。


「なにも話してないの?」

「あの子が勝手に拗ねてるだけでしょう」


怒りで頭がおかしくなりそう。どうしてそんなことをさらりと言えてしまうの。


「声も……掛けてないの?」

「どうすればいいのか分からないのよ。いままですごく良い子だったのに……突然こんなことになっちゃって」


はじめて雪ちゃんに同情した。なにも言わずに朝帰りをした雪ちゃんだって悪いけど、こんなのはあんまりだよ。

用意してくれたご飯には手を付けず、そのまま雪ちゃんの部屋へ向かった。生まれてはじめて雪ちゃんを可哀想だと思った。


雪ちゃんはベッドに横になり、うずくまっていた。顔は見えないけど、寝ていないってことはすぐに分かる。

なんて声を掛けようか。「大丈夫?」って言葉はわざとらしくて、昔からあまり好きじゃない。
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