あの夏よりも、遠いところへ
ふと気が付けば、もう太陽は西に傾き始めていた。
やべえ。そろそろ帰らないと、本当に夏休みの宿題が終わんねえや。
「ごめんやけど、きょうはそろそろ帰るわ」
「どしたん?」
「あした提出の宿題、まだ半分終わってへんねん」
「……そっか、もう、夏休みもおしまいやねんな」
あ、また淋しい顔をする。
俺だって、これからは少ししか会えないと思うと淋しくてたまらないのに、先にそんな顔をするなんて、サヤはずるい。年上のくせにさ。
「あした、学校が終わったらまた来るし!」
「ううん」
「え……?」
「もう終わりやで」
「え……なんでなん? なんかあるん? じゃあ、あさっては? あさってなら……」
「あしたもあさってもその次も、次の次も、もうレッスンは無しや」
冗談みたいな台詞を、彼女は淡々と、とても真剣な顔で言う。
「私、しばらく遠いところに行くねん」
「遠いところ……?」
「うん。旅行やで」
それが嘘だなんて、俺にだって分かる。子どもだからって騙せると思うなよ。
……どうしてそんな、泣きそうな顔で笑うんだよ。