あの夏よりも、遠いところへ
雪ちゃんの前で泣いたのは、記憶にある中でははじめてだと思う。だから彼女は驚いていた。驚いて、水を出しっぱなしにしたまま、わたしを抱きしめに来た。
「……朝日ちゃんっ……」
「う、あ……っ、ゆきちゃあん……っ」
大好きだよ。雪ちゃんのこと、大好き。
これが悲しいって気持ちなんだ。むかつくんじゃない。悲しくてたまらない。
どうしていい子の雪ちゃんが、たった一度の朝帰りなんかで、お父さんとお母さんに嫌われなきゃいけないの? わたしよりも、雪ちゃんが苦しいほうが、嫌だよ。
「朝日ちゃん、泣かないで」
優しすぎる雪ちゃんなんか、大嫌い。でも、大好き。本当は、大好き。
「朝日ちゃん、いつもごめんね。ありがとう。ありがとう……」
あとからあとから涙があふれる。雪ちゃんのピンクのパーカーをぐっしょり濡らしても、どうしても止まってくれなかった。
「いつも、朝日ちゃんが悪役になってくれてたね。いい子を捨てきれなくて、ごめんね。小雪はダメなお姉ちゃんだ」
「そんなこと……っ」
「それでも朝日ちゃんは、私のために泣いてくれるんだね」
いつしか雪ちゃんも泣いていた。馬鹿みたい。いい歳して、姉妹そろってわんわん泣いているなんてさ。水道ももったいないよ。
それでも、ふたりで声を上げて泣いた。ずっと正反対だと思っていたのに、わたしたちは泣き方がとても似ているって、はじめて知った。