あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

帰宅すると、雪ちゃんがいた。リビングのソファに体操座りをして、ぼんやりテレビを眺めていた。

いつもならレッスンをしている時間。ていうか、たぶん、きょうは学校にすら行っていないと思う。


「……雪ちゃん」


声を掛けると、彼女はゆっくりと振り向いた。申し訳なさそうな顔で。


「おかえり、朝日ちゃん」

「大丈夫?」

「うん。お腹すいてない?」


ごめんねと続けて、雪ちゃんは夕食の準備を始める。

そんな顔をしているのに、夕食を作るの? わたしのために? わたしだけじゃない。あんなことを言った、お父さんとお母さんのためにもだ。


「いいよ、夕食なんて」


それでも雪ちゃんは小さく笑うばかりで、手を止めようとしない。


「きょう、学校行けなかったんでしょ?」

「……うん」

「体調悪いんじゃないの?」

「ううん。大丈夫だよ」


雪ちゃんは昔からこう。こういうところ、すごく憧れるし、同じくらい苛々する。

抱きしめてあげたい。殴ってやりたい。

全身からあふれ出る意味分かんない気持ちを、どうすればいいんだろう?


「ねえ、雪ちゃん……っ」


どうしてわたしが、こんなふうに泣かなくちゃいけないんだろう?
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