あの夏よりも、遠いところへ

北野朝日ってのは、ちょっと形容しがたい、難しい存在だ。


「清見、絶対なんかあったやん」

「無いって」

「いやあるやろ? 言えへん? 言えへんようなことなん? なあ、おまえどこで童貞捨ててきてん」

「はあっ!?」


うわ、カマかけやがった。「へえ」と口角を上げるいやらしい顔は、それでも男前なんだから腹が立つ。男前ってのは、ずるいな。


「もしかして北野さん――」

「ちゃうわ! おまえほんっま黙れよ!」


遠藤はずっと、俺と北野の関係を疑っているようだ。だから言えねえよな。北野の姉ちゃんです、なんてさ。口が裂けても。

北野にも、言うつもりはなかった。隠せるなら隠し通すつもりだった。

バレたし、もういいけど。ていうか、あのプール開きの日以来、北野はわりと普通で、拍子抜け。避けたりもしねえけど、余計なことは喋りませんってスタンス。いつも通り。

小雪さんとなんか話した? って訊きてえけど、いま北野と小雪さんの話をするのはこわくて、訊けずにいる。


「清見と北野さんはさ、どないな感じなん?」


どないな感じって、どないや。


「……分からん」


正直、めちゃくちゃ気になる。小雪さんの妹だからとか、そういうのじゃない。

でも、言葉にはできない。女として好きかって訊かれたら、やっぱり素直には頷けねえしな。
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