あの夏よりも、遠いところへ
頼むからと懇願する俺に、ついにオカンのほうが根負けしたらしい。彼女は黒い服を用意してくれ、俺用の数珠もきちんと出してきてくれた。
「スミレ、ごめんね。ご飯もお風呂もひとりでできるね?」
「うん。スミレもう子どもちゃうしー」
「そうやね。じゃ、いってきます」
オカンの斜め後ろをとぼとぼ歩くだけの夜道は、歩き慣れているはずなのに、なんだか果てしなく感じられた。
街灯、こんなに少なかったっけか。ああ、この道、サヤのところに向かう道のりと同じだ。
なんだよ。あんなに威勢よく行くと言っておきながら、もう逃げ出してしまいたいなんて情けねえよな。
「蓮、もしかしてな、もしかしてやで。……夏休み、毎日沙耶ちゃんとこ行ってたん?」
「……知らん」
「うん……ごめん」
いつもは自転車で行っていたからか、徒歩だと本当に長く感じる。
早く到着してほしいけれど、ずっと到着なんかしなくていい。
「……蓮、大丈夫?」
「大丈夫や」
「そっか」
嘘だ。全然大丈夫なんかじゃないくせに。
最悪な予想が的中してしまったらと、そう思うだけで、食べたもの全部吐きそうだ。夕飯を済ます前でよかった。