春雪
 私は連れて来られるまま雅輝くんの部屋へと来ていた。
 小さなガラステーブル。
 その前で正座して小さくちぢこまって座っている私の向かいには、怒っている表情の雅輝くんが座っている。
 ここに連れて来られてからかれこれ一時間は過ぎようとしていた。

「あの……」

 3度目の話しかけにも雅輝君の表情は揺るがない。

 まったく話し出そうとしない雅輝君にどうすればいいのか私もわからずに俯く。
 元々無口な方なのに怒るとまったく話さなくなる。
 雅輝君はそういう人なのだ。

 話し出すのを待つしかないと諦めて、私は気づかれないように小さくため息をこぼす。
 ただ正座しているだけだなんて親に叱られている子供のようだ。

 それからしばらくして雅輝くんは水をひと口飲むと、やっと口を開いてくれた。

「昨日の夜。隼人から電話があって別れた話しを聞いてないと言われた」
「あ、うん……」
「俺は別れたつもりはなかったが?」
「え?」

 衝撃的な雅輝くんの言葉に顔をあげる。

 別れたつもりない?
 つまりそれってまだ付き合っているってこと?

 クレッションマークを大量に量産している私を雅輝くんが睨む。
 整った端正な容姿だから睨むと凄みが増す。

「俺は怒っただけだ。それなのに電話は通じない。挙句の果てに隼人になぜ別れたのかと責められた」
「……」
「なぜそうなったのか説明してくれ」

 強い視線が私をまっすぐに見る。

 会って話しをすると決めたのだ。
 偶然雅輝くんと会えてこうして話しが出来る。
 
 私は息を吸い込み少しだけ姿勢を正して話し出した。
 
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