春雪
 携帯を持ったまま、しばらく放心状態だったと思う。

 恋人関係は続いていたけれど、彼から一度も気持ちを告げられたことはない。
 彼の気持ちが自分に向いていないことはわかっている。
 周りに半ば押し付けられるように始まった交際。

 彼の恋人だと言う女性の存在。
 誰にもまだ話していないクリスマスの予定。

 重なる事実。
 彼への信頼が揺らいでいく……。

 もし彼女が本当に隠された恋人なら、彼の女性に対する不信をぬぐえるほどの存在。
 私なんかが勝てるはずない。

 彼の周りたくさんの女性が近づいてくる。
 恋人である私が彼の横にいても、彼女達は私に余裕の笑みを向けながら彼に話しかけた。

 彼女達の考えていることはわかる。
 彼に釣り合わない平凡な容姿。
 けしておしゃれとは言えない服装。

 私は女性の魅力からすると地味なのだ。
 自分で自覚している。

 特別なところはどこにもない。
 特別なことは何も出来ない。
 ただ彼への想いがあるだけ……。

 そんな私が彼の横にいるのだ。
 彼の気持ちが自分へ向くかもしれないと思うのは仕方のないことだろう。

 綺麗でかわいい女の子達。
 彼女達は彼の事を理解していないまま近づく為に、彼に見てもらうことすらしてもらえない。
 でも、彼のことを理解していて近づいたなら?
 彼を理解し癒すことが出来るなら、彼の気持ちがそちらへ向いてしまうのは当然に思える。

 彼女はクリスマスの日に会社に電話をかけて確認してみろと言うけれど、私にはそんなことする勇気すらないのだ。
 
 私はただ泣くことしか出来なかった……。
 
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