バッドエンドにさよならを

「愛人のアパートの階段から落ちて死んだって言っただろう?その女は、あの男が階段から落ちる瞬間を目撃していたようで、精神的ショックに陥った。今もなお、記憶喪失らしいぞ。」

どこかで聞いたことのある話だ。

「その女には息子もいてな、記憶喪失の女とは離れて暮らしているそうだ。確かその息子はお前と同い年だったな。」

「え…」

ある人物が頭の中に浮かんだ。いや、違うだろ。たまたま同じ境遇だっただけだ。恋人が死んだことによって記憶喪失になった母親と離れて暮らしている俺と同い年の息子。

そりゃあ、世界中に何億人もの人間がいたら、たまたま同じ境遇に立つ人がいてもおかしくない。いくら、そんな珍しい境遇であったとしても。

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