隣の彼の恋愛事情
ふらふらと店を後にして、当てもなく歩いた。

気がつけばそこは斗馬のマンションの前だった。

「来ちゃった」


何も考えずにこの場所に来てしまった私は、部屋に行く勇気も出ず、しかし家にこのまま帰ることもできずに、植え込みの陰に足を抱えてうずくまっていた。

「さむっ・・・」

抱えていた足を再度抱え込む。結子さんとの待ち合わせのことだけ考えて会社にコートを忘れてきていた。

なんだか、そんな小さなことまでが悲しくなり一度は止まっていた涙が滲み始めたとき

「紅緒?」

大好きな人の優しい声が頭上から聞こえてきた。

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