隣の彼の恋愛事情
***

(今さら緊張してもどうしようもない)

それは分かっているけれど、鏡の中の私はどうしたって二コリともできる余裕がないように感じる。

パーティが行われるホテルの一室を斗馬がリザーブしてくれたので、そこで支度をしていた。

実は今日まで斗馬のご両親と会うことが叶わなかった。

斗馬は私のことは話してあるみたいだけど、結子さんの結婚が破談になった理由が私にないとは言えないので、心象がいいとは思えない。

しかも会社にとって何の利益ももたらさない、ただの斗馬を好きなだけの女だ。

喜んで迎えてくれるとは思っていないけれど、せめてもの第一印象ぐらいは良くしたい。


そんな風に考えて、心ここにあらずの私を覗き込みながらメイクをしてくれているのは、結子さんだった。

「肌が白いから、あんまり作りこまないほうがいいわね。唇もぷっくりしていて、かわいい。本当ならグロス程度でいいんだろうけど、今日はお着物だから少し口紅を塗ったほうがバランスがとれるわ」

そう言いながら、平凡な私の顔を褒めながら色々と施してくれていた。

パーティに出ると言っても、初めての私はどうしていいのか分からず困っていたところ前日のお詫びと言って結子さんが名乗り出てくれた。

今日の着物は実は母のものだ。
大事にしまっていた加賀友禅の色留袖は、斗馬の隣に立つ私を勇気付けてくれる。
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