隣の彼の恋愛事情
「そうです、斗馬さんにここで待ってるように言われて。知り合いっていうか隠しててもすぐにばれるから言いますけど、

――――許嫁なんです。私。斗馬さんの。」

許嫁・・・・

その言葉が頭の中で繰り返された。

(やっぱりあの噂本当だったんだ。)

私の周りの景色から色があせていく。

チィ兄が私になにか話しかけてきているけど、耳に届かない。

(何を期待してここまで来たんだろう。許嫁がいる相手に自分の恋心を打ち明けてどうなるっていうの。)

指先がだんだん冷たくなっていくのを感じた。

「あの、大丈夫かしら?ちょっと顔色が優れないみたいだけど。」

結子さんが心配して私を覗き込んだ。


所詮私はアイツにとっては下僕。

いつでも言うことを聞いていた私が思い通りにならなくなったから、私に対するあの態度はただの独占欲だ。

おもちゃと一緒。思い通りにならなければ捨てられるだけ。結子さんという存在に私の立場を思い知らされた。

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