椿ノ華
「…お祖父様が遺してくださった、手紙を読んでいたの」
「手紙?」
「ええ、…気付いていらっしゃったみたい。
私が、葵を愛して夫婦になった訳じゃないって」
「…さすが啓一郎さんだな、葵より何枚も上手だ」
ふっと、柔らかい笑みを浮かべた壱。
「…ねえ、壱さん」
「ん?」
「…麗羅様との、婚約は…」
「ああ、カムフラージュだよ。
彼女には悪いけど…最終的には裏切らせて貰う」
「…!」
「彼女から、南十字の情報を探るために接触したんだ。
だけど今はもう、用も無い。君の悪口を聞かされるのは散々だよ」
愛しげに目を細め、椿の手に口付けを落とす。