椿ノ華



「…何をしていると聞いているんだが」

「…私、が、転んでしまって…

お散歩をしてらした壱さんが、抱き留めてくださったんです」

「お前には、後を頼むと言っていたはずだが」

「…そんな事言われても、私には何も分かりませんから。

見兼ねた篠山さんが、休んでって言ってくださったんです。

ですから、ここでお祖父様の手紙を読んでいました」


壱から離れ、葵の腕を取る。


「壱はどうしてうちの庭を散歩していたんだ」

「…庭が、綺麗だったから…」

「…そうか」


抱き合っていた理由以外は、全て本当の事。

欺けたとは思わないが、
表面上でも理解してくれた事に安堵した。



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