鈍感ガールと偽王子
「ごめん、ご飯中だったんだね」
「ううん、いいよ。もう食べ終わるし。美結、コーヒーでいい?」
そう言って里奈は台所に向かおうとする。
「あ、いいよ自分でやるから。里奈は食べてて」
勝手知ったる親友の部屋。
あたしは里奈の手からマグカップを奪い取って笑った。
「そ?じゃあさっさと食べちゃうね」
「里奈の分も入れる?」
そう訊くと、里奈は「お願い」と頷いた。
……よかった…。
あたしはカップにお湯を注ぎながら、そう思っていた。
里奈が許してくれて。
また、こんなふうに親友に戻れて。
ちゃんと、謝ることができて。
でも、そうなったのは全部、椎葉くんが背中を押してくれたからだ。
あたしじゃいつまでたっても決心がつかなかったかもしれない。
帰る場所を、椎葉くんが、くれたから。
だからきっと、勇気が出たんだ。