鈍感ガールと偽王子


「ごめん、ご飯中だったんだね」


「ううん、いいよ。もう食べ終わるし。美結、コーヒーでいい?」



そう言って里奈は台所に向かおうとする。



「あ、いいよ自分でやるから。里奈は食べてて」



勝手知ったる親友の部屋。



あたしは里奈の手からマグカップを奪い取って笑った。



「そ?じゃあさっさと食べちゃうね」


「里奈の分も入れる?」



そう訊くと、里奈は「お願い」と頷いた。




……よかった…。


あたしはカップにお湯を注ぎながら、そう思っていた。



里奈が許してくれて。


また、こんなふうに親友に戻れて。


ちゃんと、謝ることができて。



でも、そうなったのは全部、椎葉くんが背中を押してくれたからだ。


あたしじゃいつまでたっても決心がつかなかったかもしれない。


帰る場所を、椎葉くんが、くれたから。


だからきっと、勇気が出たんだ。



< 78 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop