スーツを着た悪魔【完結】
咄嗟に席を立とうとすると、
「まゆ、もう終電ないだろ?」
と、悠馬がまゆの肩を押さえ、椅子に押し付けた。
「まゆ」
「――」
悠馬の口調も、声色も、優しいのに、どこか冷たい。
肩に感じる重みは、容易に振り払えない何か不思議な力を持っているように感じる。
うつむいたままのまゆを見ながら、悠馬は切れ長の目を細める。
「部屋を取ってあげるから、泊まって行きなさい」
「え……?」
「もう遅いからね」
肩から、首筋、そしてあごのラインに手のひらを滑らせる。
「まゆ、僕の言うことが聞けないの? まゆのために言ってあげてるのに」
恐る恐る視線をあげるまゆだったが……有無を言わさない悠馬の眼差しに口ごもった。
確かに、終電はもうないんだろうし、泊まったほうがいいに決まっている。
それは確かなのに――
心に薄くかかったヴェールのようなもやは晴れなかった。