スーツを着た悪魔【完結】

――――……



一方深青は、目を閉じている間、幸せな夢を見ていた。




「――深青。こんなところで寝ていると、風邪を引くわよ」



優しい母の手が、丸くなって眠る幼い深青の頭を撫でる。


ここは深青が特に好きだった、イギリスの田舎にある、豪徳寺一族の持つ品のいい小さな城の一つだ。


周囲見渡す限りを豊かな自然に囲まれた、美しい緑。

よく手入れされた広大な庭を、深青は馬にのせてもらったり、ここで飼われている犬たちと一日中駆けずりまわって遊んでいた。


庭に面したバルコニーに、椅子を置いて本を読んでいる母と、まだ赤ん坊の妹と自分がいる。

足元には大型犬が何匹も寝そべり、おなかで息をしながらぐっすりと眠っている。


深青は深青で、本当は半分目が覚めているのだが、こうやって微睡む時間が大好きだった。



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