スーツを着た悪魔【完結】
手を止め、隣にいるまゆに視線を向けると、彼女の黒い瞳に涙が浮かんでいた。
それはちょっと突けばそのまま頬を伝って落ちそうなくらい盛り上がっていて。
ただの子供の頃の思い出話なのに、一瞬、自分は何かおかしなことを言っただろうか、と深青をひどく焦らせた。
「……ま、ゆ?」
「あ……」
まゆはハッとしたようにうつむき、まつ毛を瞬かせる。
「別にっ……ナルニア、好きじゃないから……」
「――」
「ううん……嫌いよ。大嫌いっ……」
絞り出すように言って、まゆは深青にくるりと背中を向けた。
「――先に車に戻ってます」
そして止める間もなく、深青を置いてその場から逃げるように立ち去ってしまった。