スーツを着た悪魔【完結】
一瞬自分の願いが聞き入れられたかと胸を高鳴らせたまゆだったが――
自分を見つめる悠馬の瞳が恐ろしく冷たいことに気付いて息を飲んでいた。
そもそも、まゆが何を言ったところで、悠馬はまゆを二度とあのみすぼらしい部屋に帰すつもりはなかったし、手放すつもりもない。
確固たる意志で彼女を自分のものにすると決めていた悠馬に、幼いころから躾けられていたまゆがどうして逆らえるだろうか。
「僕は女のわがままを許したりなんかしない」
悠馬は軽くかがみこみ、まゆの背中と、膝の裏に手のひらをまわす。
あっと思った瞬間、まゆの体は抱き上げられ、宙に浮かんでいた。
「ゆっ、」
「大きな声を出してはダメだよ。他の宿泊客の迷惑になる」
そして悠馬はそのままスタスタと廊下を真っ直ぐに進み、ある一室の前で立ち止まる。
器用に胸ポケットからカードキーを取りだすと、まゆを抱いたまま部屋の中へと入っていった。