スーツを着た悪魔【完結】
深青が一言も悠ちゃんのことにふれないのは、私を傷つけないため。
そう言われたわけではないけれど、きっとそう……。
ブルーヘブンホテルでのあの夜のことは、この休みの期間、悠ちゃんにつけられた傷を往診に来てくださったお医者様に見せた時ですら、話題に上らなかった。
「深青が部屋に助けに来てくれて、悠ちゃんは……そのあとどうしたの?」
「病院にいる」
深青は持っていた食べかけのサンドイッチを皿の上に置く。
「病院ってどこ?」
「頼景が機転を利かせて、豪徳寺グループの病院へと運んだんだ。そう遠くない」
「もう退院してる?」
まゆの言葉に、深青は首を横に振った。
そんなに悪いのだろうか……。
思わず言葉を失う。
「だけど、あいつを殴ったことは全く後悔してない」
きっぱりと言われて、まゆは口ごもった。
彼が悠ちゃんに暴力をふるったのは、私のせいだと、自分を責めずにはいられなかった。