スーツを着た悪魔【完結】
そして歩を進めた未散。ふと何か感じるものがあったのか、未散が振り返ると――
兄とまゆが人目もはばからずぎゅっと抱きあっているのが見えた。
あら、やだ。ラブラブなんだわ!
妙に嬉しくなって、手を振ると、深青がまゆを抱えたまま、引きつった笑顔で手を振り返してくる。
目を離した瞬間抱き合っているなんて……。
やたら体面を気にする兄らしくない振る舞いだと思ったけれど、未散は家族としてそれを嬉しく思った。
何しろ今まで私たち家族は、兄の恋人だという女性を紹介してもらったことがなかった。
勿論やたらモテるらしい兄の恋の噂はちょくちょく聞いたことがあったけど、それはもっと若いころの話で。ここ数年は、決まった相手はいない、という雰囲気だった。
(それに昔は、頼景とばかりつるんでるから、ゲイなのか疑ってたこともあったっけ。)