スーツを着た悪魔【完結】
一見パーフェクト、非の打ちどころのない兄は、他人の前ではいつだって楽しそうに振舞っては見せるけれど、家族の前ではどこか冷めていて――
いつも退屈そうだった。
こんなことを言うと誤解を招きそうだけど、兄はいつからか、生に対する執着が薄そうに見えるのだ。
だけど可愛い恋人がいるなら、そんな気は起こさないだろう。
しかも両親に紹介するつもりだって……。
「ふふふっ……」
また笑いがこみあげてくる。
そんな美女、未散を不思議そうに振り返る人々の視線をものともせず、彼女はその場でぴょん、と跳ねてバッグから携帯を取り出した。
これって、お兄ちゃんが「恋」しちゃってるってことよね。よかった!
知り合いから、兄の無礼な電話の応対を聞き、怒りで目がくらんでいたときは、はヒールが折れそうなくらい腹が立っていた未散だったが
初めて兄の恋人を紹介されたことで、嬉しくて天まで舞い上がってしまいそうなくらい、はしゃいでいた。
――――……