スーツを着た悪魔【完結】
――――……



住所録を作り上げるのに、どうがんばっても2週間はかかりそうだった。


数時間格闘後、かけていた眼鏡を外し、肩をグリグリと回していると、目の前に紙コップでコーヒーが置かれる。

顔をあげると、年は三十代くらいだろうか。事務をほぼ一人でやっているという眼鏡姿の女性と目が合う。



「大丈夫よ、焦らなくても。すっごい量があるのわかってるし」

「ありがとうございます」



彼女は阿部と名乗った。既婚で小学生の息子さんがいるという。



「私が一人でやらなくちゃいけないのかって焦ってたのよね。よかった、来てもらえて」

「いや、そんな……」



自分がここに来たのは、たまたまで成り行きなのだ。

来てもらえてよかったと言われると、だましているような気がして気が咎める。



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