塔の中の魔女

「俺は、……至らない暗愚な王だ。
ゼルダンの脅威に抗う術を持たずに、姉が殺されるのをわかっていて、
先方が言うままに婚儀の話を飲んだ。
侍女が身代わりを申し出たときも、姉を救えるのならと安堵していた。
だけど、他に術はないのだろうかって思う。
姉上を守り、国を守る方法……」


「さようなものは」


「五百年前、ユダはゼルダンに屈した。
降伏したあと、魔法使いたちは賢人はもちろんのこと、
戦争に参加していなかった下位の魔法使いまで、ひとり残らず殺され、
魔法学者はすべて捕らえられた。
王は首を刎ねられ、王族はその末端まで容赦なく殺されていった」


なにかを畏れるように、エカテリーナの肩が震えた。


「ユダの民はこの五百年、絶望の中を生きてきた。
国はゼルダンが統治し、高い税を課せられて、
厳しい法の元に支配され、その圧政は長く民を苦しめた」


「しかし、そなたは王であろう?
ユダの人間ではないのか?」


「俺は、ユダの小領地に封じられていた一貴族の子孫だ。
家系だけは古いが侯爵に過ぎない俺の先祖は、ゼルダンの王におもね、
その忠誠心によって大公に任ぜられた。
他国への侵略に忙しいゼルダンの王につけこんで、
先祖はユダの国を任されたんだ。
ユダ大公国と国名を変えるのを条件に」


そう言って、エカテリーナを見た。
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