昔の風
「慎也はどうした」

 慎也とは小学三年生になる二男だ。

「野球よ。帰ってくるのは夕方だって。学は小山くんの家」

「どこか行くか?」

「え?」

 真紀の顔を見ることができず、思わず新聞を広げた。

「どこかって?」

「行きたい所ないのか?」

「あるけど……」

「どこだ」

「映画」

「よし、行こう」

「本当?」

「あぁ」

「ラブストーリーよ」

「いいじゃないか」

 新聞をたたみ、ご飯を口に運んだ。

「行こう」

「知らないから。あとで文句言わないでよ」

「言わないよ」

「どうだか。昔から苦手なくせに」

 やっぱり、俺を知っているのはコイツだけだ。




 それから一年後、真紀は妊娠して女の子を産んだ。お互い四十を超えての子育てはきついが、二人の息子が手伝ってくれるから何とかやれている。学や慎也がここまで優しさを持った人間に育っていたことに驚いたのと同時に、何も知らなかった自分を恥じた。

 全部、真紀のおかげだ。

 そんな真紀の左手薬指には指輪が光っている。俺も努力の甲斐あって何とか入るようになった。

 俺は本当の家庭という安定を築くことができたのかもしれない。






 END
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