モカブラウンの鍵【完結】
「それだけ長い間、料理をする人が怪我をするなんて珍しいですね」

「考え事をしていたせいです」

賀川社長は俺の顔をじっと見てから、手をじっと見た。


「料理は雑念を払うことができる。私はそう考えています。料理でも雑念を払えないということは、杉山さんにとってとても重要なことを考えていたのでしょうね」

「あ、はい。大切な人と喧嘩をしてしまって。不思議なことに料理をしているときと1人でご飯を食べているときに、その人のことを考えてしまうのです。

それで実感しました。

料理は誰かのために作るものなんだって。料理を食べて美味しいと喜んでもらいたいから、少しでも料理が上手くなりたいって人は思うんですよね。自分のために作る時は、健康で長生きするためですよね。

今の僕は大切な人のために作っている料理を自分が食べているんです。だから美味しいと思えないんです」


自分の思っていることを素直に話してしまった。

これじゃ、賀川社長に人生相談したのと同じだし。

一応、料理の話だったことが救いだけど、それでもやっぱり問題だと思った。

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