モカブラウンの鍵【完結】
「どうぞ」

若干クシャクシャしたハンカチを渡す。

そのまま、ゆっくり佐伯さんの前を歩く。

後ろからは、佐伯さんの履くハイヒールの音がついてくる。


多分、佐伯さんは簡単に整理の付かない何かがあるんだろう。

そういうものは、自分から誰かに話したいと思えるようになるまでは聞かないのが一番。


「杉山、ありがとう。ハンカチ、洗って返すね」

斜め後ろ、左肩当たりに、佐伯さんの声が当たる。


「はい。お願いします」

俺は前を向いたまま言った。


オフィスまで、コーヒー牛乳を飲みながら、後ろから聞こえるコツコツという音に耳を澄ました。

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