魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
普段あまり物怖じしないラスが震えているのは――ゼブルが憎しみのこもった視線でラスを射抜くように睨んでいるからだ。


自分に会いに来たはずなのに純粋な殺気を叩きつけられて物怖じしないはずがない。


ラスの身体の震えが止まるように額に手をあててやわらかな気を送ってやると、ようやく落ち着いたが…けしてゼブルを見ようとしない。

ゼブルは…悪魔の中でも最上級ランクにあたる悪魔。

持つ力は留まるところを知らないほどに大きく、ラスを狙いに来たのならば今すぐにでも殺すべき相手だ。


「ゼブル…チビを見んな。それ以上殺気をぶつけてくると俺が黙っちゃいねえぞ」


「コハク様…噂は聞いてはいましたが…本当に女如きに骨抜きにされるとは。がっかりですよ」


「勝手にがっかりしてろ。お前みたいのがこっちでうろうろすると困るんだ。それとも俺に殺されに来たのか?」


「死神が地上に居て俺が居てはいけないというのはどういう線引きなんでしょうか?コハク様、お迎えに参りましたよ。あなたは魔界の王として君臨すべきだ。体制も整えて参りました」


デスがじりじりと後ずさりをしながらラスを背中に庇い、少しでも温もりを得たいのか――ラスはデスのローブを掴んで離さなくなった。

そうしながらもコハクの胸に顔を埋めたまま上げなかったが…コハクの忠告を受けて殺気を消したゼブルは、顎に手を添えて首を傾げた。


「おや、ご存じない?あなたがいつ魔界の王として君臨してもいいように私が魔王軍を作り上げました。なかなか優秀な部下が揃っていますよ」


「お前なにやってんだ?俺は魔界なんか行かねえしもう世界征服なんかに興味もねえ。お前は俺と一緒に暴れてえだけだろ」


「頑固ですねあなたも。あの頃の覇気の欠片も無い。本当にその女があなたを骨抜きにしてしまったのですね」


さっきから一言も発さないラスとは反対にゼブルは喋りつづける。

コハクはそのほとんどを右から左に聞き流し、ラスをひょいっと抱っこして頬をぺろぺろと舐めた。


「へーきになったか?あいつはただのヘンタイだから怖くねえって。もう殺気なんかお前に向けねえように後で言い聞かせておくから安心しろって」


「…うん…。コー…私…部屋に戻ってもいい?」


「ああ、デスと戻ってろ。俺はこいつとちょっと話があるからさ」


コハクの赤い瞳がぎらりと光った。

ゼブルはぞくっと身体を震わせて、腰に手をあてて待ち構えた。
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