魔王と王女の物語③-Boy meets girl-【完】
リロイとティアラが馬を飛ばしてグリーンリバーに着いた時、コハクは身支度を整えてどこかへ出かける風体だった。

とはいってもコハクは魔法使いで影の中にいくらでも物を詰め込むことができるので、手には何も持っていない。

腕にはルゥをしっかり抱き、息せき切って部屋に飛び込んできたリロイとティアラとの再会をいつものように皮肉を言ったりするでもなく、真顔だった。


「影…!ラスが攫われたってどういうことだ!?」


「…手紙に書いたまんまだろ」


「それしか書いてないじゃないか!誰に?ラスは今どこに!?」


「ゼブルっていう悪魔に攫われた。…俺が以前何度かつるんだことがある奴だ。チビは…今どこに居るかわからねえ。もやみたいのがかかってて…居場所がはっきりしねえんだ」


久々に会ったリロイとティアラは、日々執務をこなしている多忙の身だ。

こうして駆けてくるにも彼らを支えている民間からの政務官たちに止められただろうが――ラスの存在は彼らにとってもかけがえのないもの。


「悪魔!?じゃあ…お前のせいでまた攫われたって言うのか!?」


明確に真実を突きつけられて苦笑したコハクは、ルゥを抱っこしようとして近寄ってきたティアラから1歩後退してそれを拒絶する。

またルゥも普段なら誰に抱っこされても泣いたりしないのだが、今にも泣きそうな顔をしてぎゅっとハンカチを握りしめていたからだ。


「俺のせいっちゃ俺のせいだ、間違いねえ。…だから捜して来る。早く捜さねえと…」


「…危ない目に遭っていると?」


「わからねえ。ゼブルは気性が激しい奴だし、俺の気を引くためならなんでもする。あいつ…チビを傷つけてたら絶対許さねえ…」


コハクの身体の奥からふつふつとわき上がる怒りが見えるようだった。

この万能で最強な魔法使いだったら心配ないとわかっていても、ラスは無鉄砲だし何をするかわからないので目が離せないのは事実。

リロイとティアラは同じ部屋で難しそうな顔をして腕を組んでいたグラースといくつか言葉を交わし、膝を抱えて座っていたデスの肩を叩いて隣に座った。


「手分けをした方がきっと早く見つかる。影、目星はついているのか?」


「…それもわからねえ。だけど絶対見つける」


「魔王、ドラを借りるぞ。私もしばらくの間ここを空ける」


グラースが壁にもたれ掛っていたドラちゃんの腕を無理矢理掴んで部屋を出て行った。
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