恋獄 ~ 囚われの花 ~【完】

5.虎鶫の啼く夜




その日の夜。

23:00。

花澄は自室のベッドの上で、膝を抱えて俯いていた。

繁次はあれから工房に戻り、清美は明日大阪で行われる冬の俳句の会に参加するらしく、律子を連れて夕方に屋敷を出た。

いつも清美は、関東の外に出かけるときは、着付けなどを手伝ってもらうため律子を連れて行く。

なので今夜は、屋敷には自分と環しかいないのだが……。


「…………」


花澄は俯いたまま、膝に額を押し付けた。

誰もいない今日なら、環と話をするにはちょうどいいのだが……。

でも……。


花澄は今日、環と一度も顔を合わせていない。

環も花澄と雪也の件については聞いているはずだ。

……たぶん、自分と顔を合わせたくないのだろう。

花澄は引き裂かれそうな胸の痛みとともに、自分の視界が滲んでいくのを感じた。


環に、言わなければならない。

もうこの関係は続けられない、と……。



< 409 / 476 >

この作品をシェア

pagetop