月のあかり
「私のこと憶えてますか?」
忘れる訳ないじゃないか。
たった3週間で色褪せてしまうほど君への想いは貧弱じゃない。
「どうしてたの? 心配したよ」
嬉しさに高ぶり、焦りにくゆる感情を押し殺し、落ち着いた声色で精一杯の優しさをその一言に込め、ぼくは大人の男らしく振る舞った。
「ごめんなさい。実は‥‥‥」
「いいよ」
どうしてたの? と聞いておきながら、ぼくは彼女が何かを言い掛けたのを敢えて遮った。
そして心の中で(何も言わなくてもいいよ)と呟いた。
実際こうして再び連絡をくれた事だけでも充分満足だったし、何かそれ以上の理由や経緯を詮索するつもりはなかった。
きっと彼女にも色々と事情があったはずだ。
「嶋さん、今日はどちらにいるんですか?」
この前のデートの時には「直樹さん」と呼ぶような親しい間柄な言葉使いをこなしていたのに、やはり3週間のブランクは、あかりの言葉に余所余所しさを復活させてしまった。
「今日は営業で新宿に来てるんだ」
「新宿?」とあかりが訊いた。
「うん、いま西口の高層ビル側にいるんだ」
「えっ、本当ですかぁ?」
あかりは驚きを隠せないような訊き方をした。