TABOO 短編集
人によって違うだろうけど、私はランナーズハイで多幸感を得たことはない。
ただ、呼吸が楽になり、足の重さが消えて、どこまでも走れるような気分になるだけだ。
ある意味、それが気持ちいいということなのかもしれないけれど。
「苦痛を一時的に忘れるだけだから、あとで反動が――」
翔の目が逸れて私は言葉を切った。
視線を追うと、木陰で若い男女が親しげに話している。どちらもサークルの仲間で、男の方は私の彼氏だ。
「いいの? あれ」
心配そうに言う翔に「何が?」ととぼけてみせる。
「たまにはペース上げてみたら?」
翔をからかってから、軽く息を吸い、私は地面を蹴りだした。