ぽるかLIVING
「うへえ、のぼせた」


風呂上り用の冷水器の前で、

ごくごくと飲みながら、


ソファーでくつろぐ。


後から男湯の暖簾くぐりながら、

真っ赤な顔で出てくる、音々に、

じろりと睨まれた。


「まさか怒ってるんじゃないよな」

「怒ってます」

「まあまあ、そうぷんぷんするなって、

 お前だってけっこう感……っいってえ、」


音々は真っ赤になりながら俺の脇腹をつねった。

「それ以上言ったら、

 今日から口きいてあげませんよ!」

「わかったわかった

 もう、温泉で『ON』せんよ」

「八起さん!」

「はいはい」

寒いダジャレで冷やしてやってんのになあ、

最近の音々はなかなか厳しい。


からりと部屋の引き戸を開けようとすると中から子守唄が聞こえてきた。

あまり聞いたことのない歌だなって思ったけど、

音々はちょっとボーっとして聞き入っていた。


「ん?どうした?」

「あ、いえなんでもありません」



「すみません、ご面倒おかけしました」

「いいのよ、私が志願したんですもの。

 可愛い子ですね.はがまないし、

 暫く遊んだら寝ちゃって

 育てやすいいい子、きっとママ思い。

 ……羽音もそうだったわ」

「はおと?」

「あ、いいえ、なんでもないんです。

 夕食の手配いたしましょう、

 それまでゆっくりお二人でくつろがれてください」

「ありがとうございます。

 お世話になりました」


そそくさと部屋を出ていく女将に

不思議そうな顔で首をかしげて見送る音々。


女将が去った後、

音々はぽつりとつぶやいた。


「ねえ、八起さん私忘れてたんですけど、

 私の養女になる前の名前は『羽音』って名前だったんです。

 字角が合わないって理由で、

 「音々」と、お父様がつけてくださったんだって……


 さっき、女将さん、はおとって……


 もしかして、

 偶然そう聞こえただけですかね?」



「さあな。気になるか?

 聞いてみればいい」


「そ、そんなの無理です」


「なんで?怖いのか?」


「そりゃあ」


「音々は、音々だ俺の妻で七重の母親だ

 それ以上でもそれ以下でもないさ

 怖がらなくていいだろ?

 心配するな」


「……そうですね。

 私、聞いてみます直接女将さんに

 八起さん

 大好きです。」


「ぉお!俺もだ。

今夜は寝ずにがんばるぜ!」


「もぉっそういう意味じゃないですってば!」

その声に反応してか


どんっ


ものすごい音がした


「あ」



ナナが寝がえりをして思いっきり壁におでこをぶつけていた。

一瞬俺たちもナナも固まった。


そして

ぎゃああっ~~~~

フロアー中の部屋に聞こえるような声で泣いたのだった。

みるみる膨れ上がったコブの手当てに、

あわててフロントに走り氷と冷えピタをもらい。

暫く泣きやむまで、

寒空を散策する羽目に、


カラコロとなる下駄の音

おでこに冷えピタ

ビービーなく赤ん坊の声


いやはや何とも不似合いな温泉地の風景

数人の温泉客がすれ違い怪訝そうな顔をしている。


「“コブつき旅行 コブを作って コブがなく”

 上手い!座布団一枚!」


「ただでさえ寒いんですから、そういうのやめてください!」


ハックション!!


「し~っナナ寝たみたい。

 旅館に帰りましょ」


「はあ、湯ざめした、

 今度は部屋についてる風呂入ろうぜ」

「いいですよ、でも、

 今度は別々ですから!」

「ちぇっ」



この騒ぎで、結局、音々と女将はそのままになったけど、

名乗り合うのは時間の問題だろう。



年の瀬間近かな聖なる夜に、

コブに泣かされた夫婦であった。


メリークリスマス♪



END.




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いやあ、すみませんいっぱい間があいてしまいました。

良かった年内に片付いて、


せめてクリスマスには仕上げたかったんですが、

間に合わなくて--!!



今年はホントブログにあまりこれなくて、

小説の更新もあまり進まないし、

困ったものです。


皆さまこんな私ですが

今年一年お付き合いいただきありがとうございました

来年もどうぞよろしくお願いします。


良いお年をお迎えください!



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