光の花は風に吹かれて
「貴女は何もわかっていない!」

セストが叫ぶと、ローズはビクッと肩を震わせた。

「あのとき、私の記憶も見せたはずです。これ以上、何を求めるというのです?」

ローズは現実を受け止めきれないだけだ。まだ、ルミエール王国へ帰りたくないというだけで、夢の中に留まろうとして。

「この世界に、貴女の理想はないのです。私は貴女を利用した。後宮の隅で、付け入る隙間を心に持った無知な王女――貴女にそれ以上の価値はなかった」

ローズに会ったのだって、偶然だった。幸運だったと、それだけだった。

「えぇ、そうですね。偶然私を見かけて、貴方は貴方の正義を貫いただけ。でも、私がヴィエント王国へ来たのは偶然ではなくて、私の意思です」

ローズは身を乗り出すようにして、真っ直ぐセストに向かって言った。

「今、貴方とこうして向き合っていることは、私が現実に存在すると、私の気持ちが本物だとは思ってくださらないのですか?」
「そんなものは錯覚です。私が貴女に与えたのは夢で、偽りの種から真実の花は咲きません」

その偽りの花はもう風に散ったではないか。一体、ローズの中に何が残っているというのだ。

「わかっていらっしゃらないのはセスト様の方です!」

ローズもセストに負けじと声が大きくなっていく。

「私の貴方への気持ちは、夢の種から育ったものじゃない!セスト様が私に向けてくれる優しさや真剣さが育ててくれた本当の恋です!」
「ならば、もっとひどく傷つけましょうか?優しさ?そんなもの、貴女がルミエール王国の王女だから加減をしているだけだとは思わないのですか?」
「セスト様!」
「“現実”をお教えしますよ。立ち直れないほどにへし折っても良いと言うのなら――っ」

ボスッと、セストの頭が枕に沈む。その衝撃は、肉体ではなく精神的なものだったように思う。
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