金色のネコは海を泳ぐ
ルーチェは空を見上げながらトボトボと歩いていた。

下を向いても、海は水色だからそんなに景色は変わらないのだけれど、涙が零れないように上を向いているのだ。

ルーチェの気持ちを無視した晴天の空はどこまでも澄んでいて、頼んでもいない“コントラスト”とやらを演出してくれている。

もう何度、この場所を同じように上を向いて歩いたのだろう。

「10、11……」

たぶん、12回目。1ヶ月に1度だから、1年繰り返していることになる。

つまり、ルーチェは1年も卒業試験に落ち続けている。

ルーチェはクラドール養成学校に通っている。クラドールとは医者のことで、ルーチェの住むマーレ王国は国民の8割がその資格を持つほど優秀な人材の育つ国だ。

……ルーチェを除いて。

「どうして私だけ……」

これを呟くのも12回目だろう。

だが、本当にルーチェ“だけ”なのだ。卒業試験に落ちるのも毎回ルーチェだけ。母も父もクラドールで家は診療所、4つ年下の妹でさえ学校では優秀。

一体、自分はどうしてこんなに出来が悪いのだろう。

何か重要な細胞が抜け落ちているのではないかと、図書館にこもって人体図鑑を片っ端から読んだこともある。自分の身体を学校の実習室で隅々まで調べたこともある。

特に異常が見つからなかったのは、自分に見落としがあったからだろうか……
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