恋の訪れ

───…



「痛ったぁ…」


悲痛の声を出しながら頭を擦り、身体を起こす。

いつの間にか寝てしまっていたあたしは既に朝がきていて――…


って、あれ?


あたし、どうやって帰ってきた?

記憶を辿ろうが、全然昨日の事なんて覚えてる訳がない。

と、言うか思い出せない。


しゃがみ込んでた。…までは分かるし、その後、昴先輩に──…

って、あたし。昴先輩にどうしてもらった?


だから慌てて部屋の中を見渡してしまった。

でも、ちゃんと自分の部屋だし、パジャマだって着てる。


何度昨日の記憶を探り出そうとしても思い出せなくて、あたしは慌てて階段を駆け下りた。


「…ママっ!?」


ドアを開けてそう呼ぶと、キッチンから顔を出すママの姿。


「あー、莉音おはよ。大丈夫?」


そう言ったママは心配そうに側まで来てあたしの顔を覗き込む。


「ねぇ、ママ。あたし昨日どうしてた?」

「どうしてたって、寝てたけど」

「違う違う。どうやって帰ってきてた、あたし?」

「どうって、普通に」

「普通に?」

「うん、普通に」

「いや、ほら…誰かに送ってもらったとかさ、なかった?」

「誰かにって、それは分かんないよ。いつも通り帰って来てたし」


“まさか莉音覚えてないのー”


ママは付け加えるようにクスクス笑って、もう一度キッチンへ向かう。


「でも相当疲れてたんじゃないの?疲れたーって言って即刻お風呂入って寝てたよ?」


続けてキッチンから聞こえてくるママの声に再び昨日の事を思い出そうとしてた。







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