恋の訪れ

「昴先輩…」


部屋を出てすぐ、昴先輩の背中に声を掛ける。

ゆっくりと振り返った先輩は無表情のままにあたしを見つめた。


「あの、ありがとうございました」

「別に…」

「あの、先輩…ひとつ聞いてもいいですか?」

「何?」


これだけはどうしても聞きたかった。

どうしても。


「あの日…カラオケに行ったあの日の事ですけど、あたしどうやって帰ったんでしょうか?」

「は?」

「記憶がないんです。頭が痛くて踞ってた記憶はあるんですけど、その後の記憶が…」

「……」

「気付いたら朝で…。サクヤ先輩が言ってたんです。俺の自転車で帰ったって」

「お前、自分で帰っただろーが」

「やっぱ、そーなんですね。すみません、変なこと聞いて」

「んじゃ、気を付けて帰れよ」

「…えっ!?」


昴先輩の口からそんな言葉が出たことに唖然としてしまい、思わず声を上げてしまう。

なのに。


「お前、馬鹿そうだから用心して帰れっつってんの」


また嫌みを言う。


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