恋の訪れ
「あの、もう一ついいですか?」
「あ、なに?」
「あたし、お前じゃなくて莉音って可愛い名前があるんです。今度からそう呼んで下さい」
嫌みを込めて微笑んでみたものの、昴先輩は馬鹿っぽく鼻で笑い、
「馬鹿じゃねーの?」
そう言って、あたしに背を向けて歩き出した。
渡り廊下を歩いて行く先輩の後ろを軽く睨んで、あたしは反対側の階段を掛け降りる。
やっぱ最悪。
それにしても疲れた。
想像以上に疲れてしまった所為か、頭が重く、耳鳴りがする。
そのまますぐに家に帰ったあたしは部屋に駆け込み、鞄の中からテスト用紙を引っ張りだす。
「いつの間に…」
間違いだらけのテスト用紙にギッシリと埋められた、答え。
答えだけじゃなく、ちゃんと意味も全て書かれてある。
しかも、男だとは言えないほどの綺麗な字に釘付けになる。
「昴先輩って、何者なんだろう…」
頭がいいのはこれで分かった。
でも性格はなんとも言えないのが確か。
まぁ、こうやって教えてくれたのは優しいと思う。
けど、それも何だかよく分からないサクヤ先輩との交換条件であって…
気になる。
やっぱり気になる…